2010年04月28日

ファッション化するGID[一稿]

『ファッション化するGID 〜今日から俺はGID、それってどうよ?〜』
                          朱時卍時

 GID:Gender Identity Disorder:性同一性障害。
 
この言葉は一般的に肉体的性別と精神的性別(性自認)が異なる精神疾患を示す。しかしながら厳密にはそれだけではなく、医学的に認定されるには幾つかの細かな条件や背景が必要である。このことが広く認知されていないためか、ことトランスジェンダーパブや、女装バー、男装バー、ニューハーフバー、オカマバー、オナベバーなどに出入りする客層、あるいは一部の店子の中にはGIDの正しい認識を持たないままGIDと名乗るもの、勘違いするものがいる。彼らの多くは精神的に不安定であり、肉体的にも非常に大きな揺らぎを見せる。その多様性は筆舌尽くしがたく、ある意味で痛快。
だがその実態をご存知の方がどれだけいるだろう。
伝えんがため、実際に女装バーに出向き、この奇なる生態を観察してみた。

〜大学教授はGIDの夢を見るか〜

Case1 某大学 講師(55くらい?) 女装スナック勤務 の場合

老眼鏡をかけ、おかっぱのカツラを装着した初老の男性。お世辞にもその服装センスはお洒落とは言えない。強いて誉める点を上げるとするなら、ピンクの文字盤が可愛らしいバングルウォッチくらいなもので、基本的には下町で雑貨店を営むおばあちゃんといった感じの装いである。また、「うん」や「ふう」などの一語においてのみ裏声を用いることが彼の外見以外での特徴だろうか。彼の自白に関して少し記すと、女装の道を歩み始めたきっかけは若き日に「女装コンテスト」で優勝した際、同じ男性である先輩から愛の告白をされたと同時にアナルセックスしたことらしい。(もっとも、「女装コンテスト」優勝という話はこの女装世界には、ホントにしても嘘にしても数多く存在するのでそれが真実かどうかは甚だ疑わしいものではあるが)彼によるとその「コンテスト」以降は女装を一切していなかったが齢50を過ぎた辺りで自分がGIDであることを認識した。あと何年の寿命があるのか知らないが、将来は女性になりたいとのこと。本人曰く、これ以上自分の中の女を苦しめたくないらしい。

この場合、「コンテスト」からGIDと気づくまでの長い期間の間、女装やそういった類の代償行為によって自らのコンプレックスを解消しようという行為が見られず、かつ、この教授の場合は妻も子もおり結婚しているという客観的事実が「夢見る中年型GID」を感じさせる。
私が出会ってきた「自称GID」に最も多いのがこの、中年になってから自分がGIDって気付いた! 50を過ぎてGIDに開眼! のパターンである。この「夢見る中年型GID」タイプのたちが悪いところは中年であること、社会的に地位がある程度確立され、下手に経済力を保有する点である。一般的な、男性から女性へ(MTF=Male TO Female)の性別適合手術(=SRS)の場合で、豊胸と異性生殖器の成形手術では、(SRSが盛んなイギリスをはじめ、ヨーロッパ諸国では保険がきくのに対し)日本では保険がきかないため安く見積もっても160万〜200万円程度の手術医療費がかかる。さらにホルモン治療や術後経過の診断など定期的、持続的な出費がそれに上乗せされるため、若い「本当のGID」達はホルモン治療に留まることが多く、資金が溜まるまではなかなか手術に踏み切れない。それに比べて半ば経済力があるがゆえに「俺は男をやめるぞ! だってGIDだもん!」くらいの勢いで手術を行ってしまう中年女装子(じょそこ)の方は後を絶たない構図になっているように思う。
本来は資金があったとしてもガイダンスに沿ってGIDの治療を受ける場合、ある程度の時間がかかる。それは治療が不可逆的なものであり、本当に手術するべきか自問自答させる期間を患者に与えるという意味で、医療現場の者からのある種、親心であるはずだ。それなのにガイドラインに沿わず、思い込みだけで、勝手に短期間でSRSを海外で受ける中年型GID達。惨事が起きないはずがない。実際、手術したものの戸籍変更は(ガイドにのっとってないために)できないし、どこの会社も雇ってくれないし、中年だからお水も出来ないし、何か思ったより女って辛い、などの理由から自殺してしまう、術後の「夢のあとGID」が後を絶たない。
また、「夢見る中年型GID」はその年齢、世代からか古い「女性」観を保有している場合が多く、ことによると「女性」とは、あるいは「女装」とはかくあるべきという持論を展開することがある。もっとも持論というのは言葉の綾であって基本的には女装研究の「大家」とされる三橋順子氏の著作からの引用が多いが。さらにコレが悪化すると別の段で後に解説する「神秘主義的GID」(女性を信仰するGID,や行き過ぎたフェミニスト)と移行する側面を含む。
「夢見る中年型GID」の教授が今年もビキニ姿になったとか、トイレは女子トイレを使いますとか自慢げに話しているところ「それ犯罪ですから」とすかさず突っ込みをいれた私だったが、正直、半ば妄想に近い思い込みで女子トイレに侵入する神経の図太さには自分以上の男らしさを感じざるを得なかった。

〜 in 築地市場GIDは卸値価格!〜

Case2 築地市場勤務 (30歳くらい?) 女装スナック男性客、時々女装客の場合

  年の頃は30位だろうか、短髪にTシャツの似合う体育系の男である。弱いくせに大酒をくらい、自慢話しかしないこと、悪酔いする癖があり、時たま店のトイレを破壊すること、閉店時間後も長時間居座り、店子を過剰にアフターに誘いたがること、男としての器量が極端に狭いことさえ除けば、浅黒い肌に適度な筋肉と脂肪が付いた、そこそこの男である。とりわけ目立った存在ではないが、会話の返しが特徴的で「悪いけど、俺〜だから」「言っとくけど俺〜だよ」「言ってもいい? 俺〜」「だから知ってるって、俺〜だから」「って俺なんでこんなこと知ってんの?(一人突っ込み)」のパターンの後、曲線一本で表現できそうなニヤケ顔を浮かべる。この五種で約9割の打率を誇るのだから、過剰なファックコミュニケーションと誤解されかねない。無意識に周りをハラハラさせる特殊能力の持ち主である
 彼の場合は時々女装を行い、GIDを気取る場合が多い。もっとも、本人としては自身がGIDという風に嘯くことで、その場にいるただの女装者(この場合は「趣味女」=「趣味としての女装者」)よりも上位の女装者という認識を周りに強調させる意図があるようだ。実際に女装バーの店子と付き合う手段や、ことによるとレズビアンの女性を口説く手段としてGIDを名乗るものは多い。この場合「自称するGID」はまさしく「ライセンス的な意味合いでのGID」であり、心が女性だからという名目において悪行を働こうとしたり、個人的に趣味として女装を楽しんでいるものを不必要に見下す傾向が見られる。自分はあくまでノーマルで、相手が「女装者」だから愛せると主張する、「女装許容型」の客が多い中、こうした「ライセンスGID」タイプの客にホモ上がりが多いのも一つの特徴といえる。
 しかしながら、その最大の特徴とも言えるのは何といっても「軽薄な知識」と「とってつけたようなGIDっぽい過去話」である。大抵の「ライセンスGID」タイプは対象を口説くためにGIDぶることが多いため、主となるデータソースは大抵の場合インターネットに依存している。先に述べた「夢見る中年型GID」をはじめ、「ライセンス」的な用途(case1でいう女子トイレへの侵入行為をはじめとする、女性性を獲得していると確信する上で行う行為)でGIDという単語を用いる「自称GID」自体は多いが、彼らのほとんどは自分がGIDであると妄信するが故に、その表面上の知識に関してだけいうのであれば、それなりに造詣が深いものとなっている。それに対して「ライセンスGID」の知識は薄い。基本的に「心が女の子」程度の認識と知識しか持っていないし、自分がそうであると無意味に連呼するのもこの手の特徴である。GIDらしく思われることが彼らにとっての目的なのだ。それに加え、「とってつけたようなGIDっぽい過去話」、例えば、脳内テストでも女脳だったんだとか、女の子に無理やり女装させられて抵抗できなかった、心地よかったとか、中身のない、GIDっぽいだけの似て非なる体験談、そんなようなことを語っていれば十中八九、彼は口説き目的でGIDと語ってるだけの「ライセンスGID」だろう。まあ、使用方法を見る限りではライセンスというより免罪符に近いかもしれないが・・・・・・。

〜割ぽう着がやって来る。GIDは大正ロマン?〜

Case3 自称H大学出身 現職業不明 (外見年齢30歳) 
女装スナック勤務を希望するも不採用。 謎の割ぽう着女装者 の場合

「お荷物、お預かりしましょうか? ・・・・・・」そういって入り口に駆け寄った店子の動きが氷りついた。目の前にした客は女装者。それだけなら女装バーという場所だし不思議な事ではないわけだが、その客は割ぽう着を身につけていた。猫耳、コスプレ、ゴスロリ、セーラー、そういったものはある程度見慣れているが、割ぽう着装備の女装者には初めての遭遇だった。訳も分からない様子で割ぽう着をコートかけに掛ける店子をよそに平然とボックス席に座り込む割ぽう着女装子。話を聞けば、この店で働きたくて面接に来たようだった。とりあえずの会話として女装のきっかけを訊ねてみたが、帰ってきた返答は衝撃的だった。
「だって、女って楽じゃないですか。だから女になりたいんです」
 その口調から「自称GID」っぽい気配を感じた私は手術を考えているか訊ねてみた。すると、
 「ええ、勿論。戸籍も変更するつもりです」
 声高らかに返答が返ってきた。読みは当たっていた。
 その後、確証を得るべく少しの間言葉を交え、その発言内容から、彼が「神秘主義的GID」であることを私は確信した。

「神秘主義的GID」とは、女性に過度な幻想や欲望を抱くあまり、自身を「神秘」である女性に昇華させることで「崇拝の対象=女性」との同化願望を満たそうと試みる「自称GID」のことである。さらに同種の中でも「同化」することによって「空想的女性特権」を行使できるようになると信じている人々を「自己女神化原理主義者」と本文章では表記することにする。
割ぽう着の場合はまさにこの「自己女神化原理主義者」であった。
女は楽である。このような妄想が現代社会において生まれるのは不思議なことであるが、こと「自己女神化原理主義者」にとっては、あくまで想像上の女性になりたいのだから当然と言えばとうぜんかもしれない。彼の場合、その服装、話し振りから、大正時代〜明治にかけての女性像を追っていたようだが実際のところ、限りなく戦時中の女性像に近い印象を受けた。
「欲しがりません、勝つまでは」とか「富国強兵」といったスローガンが似合いそうだった。
オカルト的なまでに女性を信奉する男性を描いた文学作品は多い。意外と「神秘主義的GID」が主人公の小説が出る日も近いかもしれない。

〜しょうがないでしょ? だって私はGIDだから〜
Case4 新宿二丁目によくいるタイプ 40代 女装子の場合 

 「私ぃ、小さい時から女の子に憧れてて・・・…」
店に入って来て数分後、いきなり身の上話をし始める中年女装子。
(また、「夢見る」パターンか)
そんなことを思いながら横で会話を聞いていると、どうも様子がおかしい。
「まえから、お水やってみたかったんですよぉ・・・…」
 と、まあ、なんとも突拍子もないことを告白しているではないか。これで自分がGIDとか言い始めたら私は笑いをこらえるか自身が無かった。
女装子は再び口を開く。
「私、たぶんGIDだからお水やるしかないじゃないですかぁ」
そう来たか。GIDの人間が水商売をしていることが多いのは、結果的にそうなのであって、実社会で職場を探すのに苦労が強いられ、生活できないから、あるいは手術代のためにやむをえず、という場合がほとんどである。なにもGIDがお水をやりたくてやっているわけではない。
でも、GIDだからしょうがないじゃない。お水やるしかないじゃない。
ちゃんとした仕事持ってるけど、GIDだからやめるしかないじゃない。
要約すると彼の言っている事はそんなような内容だった。

これはまさしく「責任転嫁型GID」の典型だった。何をするにもGIDだからという理由をつけたがる「自称GID」のことを示す。この種類の特徴として挙げられるのは妙な義務感を所有している点である。「GIDかくあるべし」という自分ルールを持っており、GIDであることに一種の優越感を保有している。その一方、都合の悪い事は「GIDルール」に照らし合わせ、結果的に拡大解釈を行い、GIDだからという理由の元に物事から逃避する。
もっとも、これは骨折をした少年が骨固定のギプスを自慢する一方、体育の授業を休んでいる光景を思い描いていただければ分かりやすいと思う。違う点があるとすれば彼らの病が自称であり、他の病(統合失調など)の可能性のほうが強いという点だ。

〜男の子はみんな、女の子になりたいんだよ〜
Case5 朱時卍時 女装好き の場合

 時々むしょうに女性になりたい時期がある。これはいわゆる健全な男性ではないのかもしれないが、昔から時々そういうことがあった。そしてそれが一番酷かったのは高校2年生の時だった。17歳の私は「どうして分かってくれないんだ!」と母親に泣きながら当り散らし、自分がGIDであると宣言し、たぶんこの苦しみによって自分は二十歳になるまでに自殺してしまうだろうと言放った。
 確かに私は小学校三年生くらいのときから女性に憧れていた。同化願望があった。けれどこれは思春期の青少年にはよくある話で、女性が好きすぎるあまり、究極的な愛の形として好きな相手に自分自身がなるという妄想に囚われることがあるのだ。性的欲求が強すぎる、あるいは行き過ぎたフェミニズムとしての理由があり、若者がこの状況を一時的にGIDと混同し、一時的に「自称GID」となってしまうこと、これを「一過性GID」と呼びたい。
 「一過性GID」の特徴としてはその現象が大きく本人の性欲と結びついていることである。これはどちらかというと性癖やフェティッシュに近く、女性化愛好症などがその例として挙げられる。精神はもとより、自身の服装や体など、外見的なものを女性化することによって興奮を覚える性癖であり、自分自身が異化していく事への背徳感や、破滅願望にその精神を支配されるものも少なくない。最終的にSRSを行うものも多く、術後に後悔するものが多いのはこのパターンである。「一過性GID」のなかには、思春期が過ぎ、GIDではないと知った後も自身が女性化愛好症であるが故に外見上、GIDと同じ流れを辿るものがよくいる。

〜GIDというファッション〜

人は誰もが着飾って生きている。着飾るという行為は帽子やスカートから始まり義手や義眼、精神にまでおよぶ。人によっては肩書きや経歴さえもファッションとして捉えるかもしれない。女装界においてはそれが今「GID」という形を借りて光臨したに過ぎない。だが、実際に「GID」と認定されているもの達のどれだけが本当に「GID」という病なのだろうか。GIDの認定証を得て、手術許可を貰うだけなら、自身の経歴、自分史のようなものをコピぺを貼ったように、それこそライセンスGIDがそうするように偽装すれば診察料プラス三千円くらいで可能な病院も存在するらしい(無論、倫理的に勧められないし、私自身コレを肯定するものではないが)。若いうちにGIDの認定証を貰って、これから先、徴兵でもあったらGIDだからって断ろうか、なんて冗談が女装仲間の中ではあがるくらいである。
 思うに、女装というファッションは女になるためのものではない。男でありながら女のようである曖昧さを楽しむものだ。あるいはある種の表意現象に似たトランス状態を楽しむものだと思う。そういった中に「GID」というファッションはどこまでひろがっていくのだろう。奇妙な中年女装子を傍目で見る機会が増えることを思えばまあ、愉快な世界になりそうな気もするが、脳卒中で倒れたお父さんの遺品整理をしていたら押入れからプレマリン(卵胞ホルモン)のボトルが大量に出て来る家庭が増えるのだとしたら、ちょっと見過ごせない未来が女装界に近づいているのかもしれない。

                             (了)

女装はいいけど、
勝手にホルモンとかやるのはよくないよ☆
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posted by 朱時卍時 at 23:54| Comment(0) | ファッション化するGID | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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