2010年07月17日

脚本「寄生中」

脚本実習で書いたもの。
テーマは「レストランにて」

「寄生中」

作:朱時卍時

登場人物

相馬時音[28]シェフ
土田龍平[34]外科医
河口望太郎[59]画家
佐々木はじめ[27]ニート
女子高生
サラリーマン
ホームレス









「寄生中」

○レストラン「ククルカン」・内
   まばらにテーブルが置かれている。
   店の扉には首を吊ったバービー人形が釣り下げられている。
   太ももにイシュタムと書かれている
   土田龍平[34]、白衣姿で席に着き、辺りを見回している。
   目を見開いている。
時音の声「お気づきですか」
   相馬時音[28]土田の後にいる。
   蜘蛛のマークの入ったコック帽を被っている。
   土田、振り返り、時音を見上げる。
土田「ここは、どこだ!」
時音「どこって、レストランじゃあありませんか。あるいはお食事どころ。料亭というといささか敷居の高い感じがいたしますから、やはりここはレストランでございます」
   途端ににぎやかになる店内。
   河口望太郎[59]奥の席に座す。
   スケッチブックに鉛筆で何かを描いている。
   女子高生、他の席に着いている。
   手首にはリストカットの跡。
   携帯電話をいじっている。
   ホームレス、他の席に着いている。
   どの席にも何も乗っていない白い皿にスプーンとフォークが並んでいる。佐々木はじめ[27]、窓際の席に座っている。
   椅子の上に立っては飛び降りるを繰り返している。
佐々木「157、156、157、158」
   ホームレス、フォークで何かを食べる仕草。
   土田、辺りを見回す。
時音「ククルカン」
土田「え?」
時音「この店の名前じゃあありませんか、土田龍平さん」
土田「名乗ったか?」
時音「ご予約されたお客様のお名前くらい覚えておりますとも」
   土田、辺りを見回す。
   河口と目が合う。
   目をそらす土田。
土田「本当にこの店を予約したのか?」
時音「ずいぶん前からですよ」
   土田、蜘蛛女をじっと見る。
時音「決して手前どもを買いかぶる訳ではございませんが、当店は人気店でして。日に三百人はお越しいただいております」
土田「この不景気にずいぶん繁盛してるな」
時音「おかげさまで」
土田「いっちゃ何だが、その、店としちゃあ」
時音「大きくない、ですか?」
土田「ああ」
時音「何事にも丁度いい大きさというのがございます」
土田「なるほど」
   土田、自分の目の前の皿を見る。
   空の皿。
土田「で、料理はいつくるんだ?」
時音「もう、お出ししておりますよ」
   土田、自分の皿を見る。
   空の皿。
   時音の顔をみる。
時音「(微笑する)」
土田「正直者にしか見えないとか言うんじゃないだろうな?」
時音「(爆笑)」
土田「そんなに……おかしいか?」
時音「いえ、そんなことは(落ち着いて)」
土田「……いいじゃないか、裸の王様」
時音「ええ、もちろんですとも」
土田「……わかってないな」
   土田、ため息をつく。
土田「……あれは、例え愚かな行為だとして 
も見得の為には全裸も辞さないという男のだな、心意気のようなものが……(呟く)」
時音「ほら、みなさん美味しそうに召し上がっていらっしゃいますよ」
   時音、土田の肩に手を回す。
   ホームレス、女子高生、フォークで何かを食べる仕草をしている。
土田「本当に食べてるのか?」
時音「本日のメニューはエスカルゴの香草焼きですが、お気に召しませんか?」
土田「いや、エスカルゴなら昔、ファミレスのチェーン店で食べたことがある。ニンニクの味しかしないような味付けだったからもともとどんな味なのかはよく分からなかったが」
   蜘蛛女、土田に顔を近づける。
時音「今日は味わっていただけますよ(囁く)」
土田「そりゃあ……楽しみだ(苦笑)」
   土田、ため息をつく。
   佐々木、椅子から飛び降りている。
佐々木「マイマイ、あるいはカタツムリ、貝類、茹でるとエリンギのような食感となる」
   土田、頭を抱える。
土田「すまないが、その、お手洗いは」
時音「あちらにございます」
   時音、トイレの扉を指さす。
   土田、席を立つ。

○同・化粧室
   土田、洗面台で顔を洗っている。
   両手を洗面台に着き、うなだれる。
土田「俺は狂ってしまったのか?」
   土田、自分の両頬を叩く。
土田「正気だ……正常だよな……」
   土田、自分の頬をつねる。
土田「夢、でもない。当たり前だが」
   土田、頷く。
土田「何で予約したんだこんな店……」
   土田、扉に手をかける。
   大きなケツァール鳥の鳴き声がする。

○同・内
   土田、席に着く。
   辺りを見回す。
   ホームレスと女子高生がいない。
   皿だけが残されている。
   河口、鉛筆を動かしている。 
   佐々木、椅子から飛び降りている。
佐々木「157、158、マイマイ、螺旋階段、廻る廻る」
   時音、ホームレスと女子高生の皿を片づける。
   土田、自分の皿を見る。
   空の皿。
   時音を見る。
   時音、テーブルを拭いている。
   土田、自分の皿を見る。
   空の皿。
   河口を見る。
   河口、土田を見て鉛筆を動かしている。
   土田、自分の皿を見る。
時音「どうされました?」
   時音、テーブルの下から土田を見上げている。
土田「(小さな悲鳴)」
   時音、テーブルの下から這い出る。
時音「驚かれました? なんだか退屈そうなお顔をなさっていらっしゃったから」
土田「退屈? 滅相も無い(苦笑)」
   土田、自分の皿を見る。
   空の皿。
土田「そうだ……ああ、ほら、食べ終わったんだよ、そろそろチェックしてもらおうかと思ってね」
   時音、土田をじっと見つめる。
時音「まだ、残っているじゃあないですか」
   土田、自分の皿をみる。
   カタツムリが皿の上を這っている。
土田「(驚き)、火が通ってないように見えるんだが?(苦笑)」
時音「好き嫌いなさってはいけませんよ?」
   土田、フォークでカタツムリの殻を突っつく。
土田「少し、考えさせてくれ」
時音「ふふ。私もピーマンが嫌いで嫌いで、良く親を困らせたものです」
土田「ああ、そうだろ。自分を説得させないとな。なかなかこういうのを食べるのは、なんというか、難しい」
時音「それでは、ごゆっくり」
   時音、その場から立ち去る。
土田「はぁ、どうすりゃいいんだ」
   土田、自分の皿を見る。
   皿の上をカタツムリが這っている。
   土田、辺りを見回す。
   佐々木が椅子から飛び降りている。
佐々木「157、158、159」      
   河口が鉛筆を動かしている。
   他の席にサラリーマンが座っている。
   その前には何も乗っていない皿とフォークにスプーンが並んでいる。
土田「いつ入ってきたんだ?(呟く)」
   サラリーマン、スプーンで何かを口に入れる振りをする。
   咀嚼するかのような口の動き。
   土田、自分の皿をみる。
   カタツムリが殻に入っている。
   大きなケツァール鳥の鳴き声。
   土田、辺りを見回す。
   サラリーマンの姿が消えている。
   佐々木、椅子から飛び降りている。
佐々木「158、159、螺旋、神曲、あるいはダンテの地獄篇、コキュートス……」
   河口、サラリーマンの居た席をじっと見つめて震えている。
   土田、河口の方を向く。
土田「おい! じいさん! あんたもここが妙なとこだって気づいてんだろ!」
   河口、土田の方を見て驚く。
   目を逸らす。
土田「くそっ!」
   土田、立ち上がる。
   店の玄関扉を開ける。
   
○同・内
   土田が店内に入ってくる。
   河口、土田の方を見る。
   佐々木、椅子から飛び降りている。
佐々木「回帰、輪廻、あるいはウロボロス」
土田「え?」
   土田、玄関扉に手をかける。

○同・内
   土田が店内に入ってくる。
   河口、土田の方を見る。
土田「え?」
   時音、佐々木、土田の両脇にいる。
   土田の両腕を押さえている。
時音「食い逃げはいけませんよ」
佐々木「デジャヴ、あるいはジャメヴィュか」
   時音、佐々木、土田を席に座らせる。
時音「残してるし」
   土田、自分の皿を見る。
   チョロギが一つ乗っている。
   河口、土田の皿を見る。
   空の皿。   
時音「いけない子」   
   時音、皿の上のものをフォークで刺すかのような仕草。
   フォークを土田の口元に運ぶ。
   佐々木、土田の頭を固定して口を開かせる。
   フォークの先端を口にする土田。
   大きなケツァール鳥の鳴き声。
   河口、俯いて、スケッチブックをテーブルに置く。
   土田の席を見る。
   土田の姿はない。
   時音、佐々木、河口に近寄る。
時音「あなたはどうなさいます?」
河口「レウコクロメディウム」
時音「え?」
河口「そうなんだ、私達は」
時音「何をおっしゃって……?」
河口「南米に、レウコクロメディウムという寄生虫がいる」
時音「それが?」
河口「カタツムリに寄生するその虫は、カタツムリを生ける屍のごとく操る」
時音「ゾンビ、ですか?」
河口「カタツムリの頭部に侵入して、目立つ色に変色し、派手に動きまわる。そうすると、鳥が見つけてそのカタツムリを食べる」
時音「……」
河口「鳥を媒介とするその虫は、そうして自分の寄生する範囲を広げていく」
時音「妙なものにお詳しいんですね」
河口「丁度、こんな姿をしている!」
   河口、スケッチを時音に見せる。
   レウコクロメディウムに寄生されたカタツムリのデッサン画とカタツムリの中に入っていく人間の絵が描かれている。
時音「お上手ですねぇ」
河口「物の怪に褒められてもな」
時音「はあ、物の怪?」
河口「白ぱっくれるな! 人をレウコクロメディウムに変える物の怪、あやかしめが!」
時音「何をおっしゃっているのかよく分かりませんが」
河口「私には見えた! 見えたのだ! ここに居た客達がカタツムリを食べると同時に! 巨大なカタツムリの中に取り込まれていく姿が! そして、巨大な鳥に連れていかれる姿が!」
   時音、肩をすくめる。
時音「……お料理は召し上がります?」
河口「正直、恐ろしい」
時音「では、食べさせて上げましょうか?」
   時音、河口の両肩に手を添える。
時音「あーんってして(囁く)」
河口「遠慮しておく!」
  河口、時音を突き放す。
時音「それじゃあ、どうなさいます」
河口「しばらくここにいさせてもらおうか?」
時音「別に、かまいませんよ」       
   時音、土田の居たテーブルを拭く。
時音「変な男。食べれば天国にいけるのに」
   河口、蜘蛛女の絵を描いている。
   その首筋には縄で縛られた跡がある。
時音「あいつもだけど」
   時音、佐々木を見る。
   椅子から飛び降りている。
佐々木「僕はビルから飛んだはずだ、廻って、廻って、螺旋状、渦巻き、あるいは唐草、二重螺旋構造の呪縛か……」
   時音、溜め息をつく。
   河口を見る。
   河口、両手を合わせ、額に押し当てながら震えている。
河口「仏説摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色……」
時音「いつまで居る気なのかしらね」
佐々木「159、160、161」

[おしまい]

☆著作権は朱時卍時に帰属します☆
使用の際はご連絡を! 15分ものです。
posted by 朱時卍時 at 12:07| Comment(1) | 脚本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
流石に生きたままのエスカルゴは戴けませんね…

ぁ、ダンゴムシを生きながら食していたあの方ならば…?

作品は、続きが気になります(O_O)
Posted by ひめ at 2010年07月18日 05:11
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