2011年08月07日

「昆虫料理小説」第一弾!

内山さんの昆虫食イベントに初めて参加してからはや、1年と10ヵ月。


ついに昆虫料理小説(ショートショート)を書いてしまいましたww


思ったより書けそうなので連作にする予定です(先いったら本にしたいなぁ[ニヤリ])。


ちなみに、近日mixiの渋澤龍彦関連の小物のコミュニティhttp://mixi.jp/view_community.pl?id=5691980にて小説と登場した料理のレシピを紹介する予定もアリ。

そんなこんなで、

女装昆虫食小説家(哂)こと朱時卍時がお届けする第一弾は……時節柄「蝉料理」!


約2000文字でお送りする、昆虫料理小説。


それでは、お召し上がりくださいませww。






『脱殻』     朱時卍時




「どうして私なんですか」

大理石のテーブルの上、四つ這いになった裸身の少女が全身から汗を滴らせ、ささやかな抗議の声を上げた。
窓から差した真夏の西日、紅色レンブラントライトが陰影濃く少女の不満そうな顔を浮き上がらせた。



「君しかいないからだよ」



平坂春泥はそう言って少女の背を見つめた。彼女の背中に乗った、生きた蝉の幼虫一匹。
羽化のために上へ上へ、少女の汗で滑りながらも、登ろうと躍起になっているところだった。

「その肌の色。幼虫の色相と実に相性がいい。こういう肌色の持ち主はそういない。ブームの白すぎる肌はダメだ。暈影作用を起こして蝉の幼虫の艶やかな油質光沢を弱めてしまう。君のように適度に日に焼けており、かつアクセントとして数個の大きすぎない黒子、蝉を嵌め込むにたる肩甲骨の窪みを持った背中でなくてはならない。黒子が多すぎても窪みが深すぎても駄目だ。下品になる。そこで理想の背を持つ君を海辺で見かけた折、逃がしてはならないと直感、驚嘆し、私は即座に! 君を我が家へお招きした訳だ」

春泥は筆を取り、テレペンチン油にとっぷりと浸すとスペイン下地に仕立てたキャンバスに大まかなデッサンをとり始め、
少女と蝉について、自身の考察が正しかったことを改めて実感した。

柔らかな少女の背と堅いキチン質の甲殻を持つ蝉の幼虫。
絶妙なコントラスト。少女の背上で蝉は時に疲れては彼女の汗を吸い、喉を潤し、上へ登る。
少女との体液の共有。同化。

蝉はある程度登るとやがて羽化し、白い翅をあたかも少女から伸びているような構図で伸ばし始める。
その瞬間、少女も羽化した存在へと昇華されるだろう。
それはきっと美しく、儚い、奇跡である。


陽が沈み、闇が少女に触れた頃。夢想に任せ、春泥は少女の大部分を描き上げた。
だが納得いかずに描きあぐねているところが二カ所あった。
一つは暗くなったにも関わらずなかなか羽化しようとしない蝉の翅。
もう一つは少女の横顔だった。

「なぜ、君はそれほどに人間の貌をしている。私が求めているのは少女と蝉の性を持ち合わせた表情なのだ。砂浜で水着姿の君は、息を切らし、笑みを振りまき、騒ぎ、蝉そのものだったじゃないか! 今一度、あれを!」

長時間同じ姿勢をしていた疲労から、少女は靄のかかった頭で、選ぶようにして言葉を吐き出した。

「私を、帰して、ください」

少女の目は虚ろで、どちらかと言えば死にかけの蝉の貌をしていた。

「君さえちゃんと表情をつくってくれればすぐ家に帰してやる。ギャラも払おう。それまでの辛抱。後少しの辛抱だ。もう少しで家に帰れるし、君はヴィトンのバッグを買えるんだ」

春泥はそう言い放つとアトリエを後にし、小皿を手に直ぐに戻ってきた。



「これを食したまえ、君の表情の参考になる」



小皿に乗っている物が先刻から自分の背中で蠢いているものと同じと分かるや否や、
少女は慄え、目を見開いた。

「昼から飲まず食わずだ。腹が空いているだろう? これくらいの量ならスタイルも変わらないし、食べても構わない」

なおも戸惑い、食べようとしない少女に春泥は苛立ちを隠せなかった。

「食べたまえ。蝉はファーブルも絶賛しているし、東南アジアでは普通の食材だ。幼虫の素揚げ、成虫の唐揚げ、チリソース和え。このどれもが君の鼻を刺激し、美食なるものと認識させているのは分かっている。考えてもみたまえ。蝉は何年も地中で過ごす。その間の餌は木の樹液だ。生物濃縮というのを知っているだろう? 放射能にせよ有機水銀にせよ生物は食物連鎖の中で特定成分を蓄積し、濃縮する性質がある。つまり蝉の幼虫は何年にも渡って樹液の成分を吸収蓄積しているのだ。するとどうだ、蝉というのはほとんど木の実のようなものではないかい? しかも蝉の幼虫は実際に木の実に似た味がする。木の実を食えぬ者はおるまい!」

春泥は力なく項垂れている少女の口を抉じ開けると、
皿の上の蝉料理をいっぺんに放り込み、顎を上下させ、咀嚼を促した。

少女の口元からペースト状になった蝉達が零れ落ち、
濃厚なチリソースの香りと蝉特有の香ばしいナッツ臭がその場に広がった。

少女は恍惚としていた。
意識が朦朧としていたせいか、蝉がこの世の物とも思えぬほど、旨く感じられた。

蝉を炎下の宝石とでも称したい気分だった。
彼女の身体は熱く火照り、この宝石を飾る台座となれたことを誇りに思った。



その数十分後、闇が少女を覆った頃、春泥はようやく絵を仕上げることが出来た。
絵の中で、少女は愉悦の貌を湛え、背には羽化したての白い翅を生やしていた。

翌朝、一匹の蝉がアトリエの窓から飛び去っていった。
後に残されたのは、会心の笑みを口許に添えた一人の老画家。
蝉と少女の一対の、乾涸びた抜け殻だけだった。




[了]
posted by 朱時卍時 at 11:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 昆虫食小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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