2015年01月05日

あけましておめでとうございます

そんな挨拶を交わす人々を避けるようにして、私は路地裏に潜り込んだ。薄汚れた酒場の裏。そこに座ると打ちっ放しのコンクリートの路面が遠慮ない冷気を尻にブツケてきたが、懐に忍ばせていたアブサンを煽るとそんなものはすぐにどうでもよくなった。
 ここは東京が下町、商店街の路地裏だったが、私の気分でいえばパリ、シャンゼリゼ通りの外れであり、私自身は安酒を煽る結核患者だった。
 そもそもなぜこんなことをしているか。
 なぁに。大したことはない。
 ちょいと悪い風邪を去年の年末に貰ってしまって、やっと調子が戻ってきたから正月気分だけでも味わおうと街にでてみりゃ、ただ単に年が明けただけだというのにヤケに嬉しそうだったり楽しそうだったり、いろんな意味でおめでたそうな顔をした輩でごった返していて、歩くのも覚束ない風邪ひきの自分がこの世でもっとも惨めなように感じられ、人らを見るのが辛くなり路地裏に逃げ込んだのだ。
 そうして、ただ逃げるのも性分に合わないので、古代ケルトの魔術師、ドルイドたちの知恵、薬草の力をもって病魔を追い払ってやることで、恨みはないが西洋医学にもの申してやろうと薬草酒を煽ったのだった。
 幻覚を見ることから緑の妖精と呼ばれたアブサン。
 いまでこそ成分調整されていてそんなことはないようだが度数は高い。薬草の効果はどうあれ、元旦にふさわしい天高き空さえバカバカしく思える今の気分をどうにかするには最適だった。
 一口、二口飲み下すうちに、風邪のなせる技か、あるいは少し前に飲んだタミフルとの飲み合わせか、目の前に緑の妖精が現れた。
 どこかで見たようなあざとさを持つ可愛らしい妖精だった。
 私は彼女がまた、美しい曲線の持ち主であったことから「ライン」と名付けた。
 しばしラインと日経平均株価の話などを交わしていると、彼女は突然空中で震動[バイブ]し始めた。
 信託を受けた古代の巫女カサンドラの如く、ラインはガタガタ震え、切れ切れに言葉を発した。
「わ、若、衆ノ皆、さん! こ、今年の抱負をお、願いします!」
 何というジョークをかます妖精さんだろう。
 こんな具合の悪い時分に抱負なんざ聞かれても今年はインフルエンザの予防注射打つよ! ってことが真っ先に頭に浮かんじまう。ウカンジナビア半島だよ。
 だいたい抱負ってなんだ。
 抱えるに背負うってことかい? 腹と背と、前後に荷物を背負うってことかい。いや背に負うとは限んないのか。似た意味を掛け合わせているパターンか。ああ! 酒も回ってさっぱりだ! 目標より今は酒瓶を抱いていたい!
 けどまぁ、御信託だ。まじめに考えないと罰があたるかもしれない。
 「今年」の抱負ってのはどうしようか。
 なんでそんなことを思うのか。今年の抱負っていうのは大きく考えれば生涯の抱負へ向けた積み重ねの一部だからだ。
 去年はドエロじゃない小説を書くことだった。それは幸いなんとか書けて、雑誌にのった。
 じゃあどうしようかね。
 ラインの方へ目をやろうとしたが彼女はもういなかった。消滅したのか、他の似たように哀れな正月を過ごしているものの元へ飛び去ったのか定かではなかったが、薄汚い路地に彼女の爽やかな残り香が漂っていた。
 あぁ、そうだ。
 病気になるのはごめんだけれど、また君に会えるよう、年越しの酒を買えるよう今年も精一杯頑張るよ。毎年、会えるといいな。

 薬草が効いたのか、タミフルが効いたのか。日の傾いた空は朱に染まり、えらく美しく感じられた。 (了)


と、抱負というテーマをLINEで振られて、ただ書くのも私らしくないので、一生付き合いたいお酒の話をとやかく書いたわけですが…今年の抱負。
内容はどうあれ自分の書いたもので笑顔を届けることですね。昔は読んだ人に傷跡を残すことばかり考えていましたが、一週回って最近はそれを生き甲斐に書いています。もちろん心に何かは残したいのですが(笑)

さてさて長文お付き合いありがとうございました。
本年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
  
P,S
このお話はフィクションです。アブサンとタミフルを飲んでも幻覚は見えません。薬とアルコールの組み合わせは場合によって大変危険ですのでお気をつけください(;´v`) 
posted by 朱時卍時 at 07:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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