2011年07月14日

「スイカ少女」

データ整理してたら夏らしいショートショートを発掘。

昔アップしたかもだし、

昔のだから少々荒さも目立つけど、

ちょっと原点らしい要素が目立ってたのでアップ。




『スイカ少女』             朱時卍時



 蝉の声が木々の狭間を抜け、流れる清水に溶けていた。
 太陽の眼差しは槍となり、河原の石たちを貫いた。ふと、そんな白昼の川辺の光景に紛れて、川面の淵、少女が一人漂っていた。一糸纏わぬ姿、豊かな髪を泳がせて、冷ややかな川に、とっぷり身体を浸けて、浮かんでいた。
 二つの乳房の間をくぐり、腹部へ、脚部へと伝わっていく水のうねり。そのせいか少女の身体は青ざめて、小刻みに震えていた。唇には紫が差し、頬からは一切の赤みが消えていた。私が少女の顔をのぞき込むと、彼女はゆっくりとその口角をつり上げた。


「アナタのために冷やしておきました」


 私は少女を東京都指定の75リットルゴミ袋に詰め込むと、背負って彼女を持ち帰った。
 私のアパートに着いたとき、少女は長いこと川に浸かってていたためか、呼吸でわずかに胸を揺らすばかり。その身体が動くことはなかった。せいぜいが声をかけると瞬きする程度、ただ、それだけだった。
 私は少女の手を握った。桜色のマニキュアが塗られたその爪から、切れそうな冷気が伝わって、彼女が私のために全身全霊をもって自信の身体を冷やしてくれていたことを知った。
 私は彼女をまな板の上に乗せ、丁寧にその身体を洗ってやった。その引き締まった白い肢体の甘さを引き立てるため、少しばかりの塩を振った。
 そして、仰向けに寝かせた。透き通る肌、青い血筋の浮かんだ彼女の腹部が重力に靡き、無邪気に撓んだ。

 私は包丁を手にした。
「放射状に切らないと甘さが均等に行き渡らない・・・・・・」
 包丁の刃が真夏の太陽の西日を映し、黄昏よりも濃密な香りが少女の腹から沸き上がった。

 彼女をおいしく食べなくちゃ

 私は自分でも驚くほど見事に彼女を切り分けた。苦痛に顔をゆがめることもせず、彼女は安らかな寝顔で解体された。彼女はとっても良い子だった。
 私は少女の右脚を抱くと、先端からぶら下がった少女のもっとも甘い部分を優しく吸った。川に浸かってよく冷えた彼女の肉が心地よく私ののどを包み込んでいった。冷たい肉が私の精神を幸福な世界へと導いていった。

 夏はやっぱり、川で冷やした女の子。ポンと叩いて良く鳴く娘。中身の締まったおいしい娘。

「夏だなあ……」
 公園で線香花火をしながら私はそう呟いた。彼女の左手と手を繋ぎ、天の川を仰ぎ、私はその日、夏を感じた。



                                           「了」



うーん、ラストシーン吉良吉影みたいだなぁ……

佐川君事件とジョジョ4部にはまってた時期に書いていた気がする。

「黄昏よりも濃密な香り」っておいっ。

まぁ、何が言いたいのか分かるけどさ……
posted by 朱時卍時 at 19:14| Comment(0) | TrackBack(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月07日

「死人」

「死人」
                              朱時卍時 

 夏の暑い日のことだった。炎の刃が牙を剥き、地に、あるいはそり立つビル郡に突き刺さっていた。風もなく、あったとしても、たかがしれている程、大気は蒸していた。
 そんな日の真昼に私は池袋の路地裏でギターを弾いていた。そして夏に丁度いいんじゃないかと考案した新ジャンル、パンクでも、メタルでも、デスメタルでもない「クラシック・ホラー」なるものを歌っていた。般若心経をベースにしている曲調が不気味すぎるのか、誰も集まって来なかったが、未来のシンガーソングライターを目指して懸命に声を張り上げた。
「――アートマンが〜やって来る〜ブラフマンと超合体ぃい〜ッ!」
 どさっ。まさに歌い終わった時、目の前に何かが落ちた。
 白いワンピースを着た女が地面に横たわっていた。
 私はギターを地面に放り、駆け寄った。外傷は特に見当たらず、ただ鼻血を流して寝ているだけのように見えた。救急車を呼ぼうと携帯を手にしたとき、私は思わずその手を止めた。
 ついさっきどこからか降ってきたばかりの女が立ち上がり、おぼつかない足取りで私の方へやって来たのだ。額に出来た青あざと鼻血を除けばかなりの美人だった。
「あのぉ、人は呼ばないでください。一人が好きなので……そんなことより、もう一回さっきの曲が聴きたいです……なんだか、気分が落ち着きます、すごく」
 うつろな表情でそう言うと、女は降ってきた場所へ戻り、正座して私の方を向いた。
 正直、気持ち悪いと思った。けど、その日初めて私の歌を「聴きたい」と言ってくれた人だったから、私はギターを拾い上げ、その人のために歌った。
 歌い終わるたび、女は鼻血をすすりながら、派手に拍手をして喜んだ。
 結局、その日私の歌をまともに聴いてくれたのは彼女だけだった。夜になって帰り支度を始め、ギターをケースにしまおうとすると彼女は子犬のような表情を浮かべて私を見つめた。
「……人も来ないのに、なんで、歌えるの?」
 ケースの留め金を掛けながら私はチラリとそちらを見た。
「理由とかないよ、なんとなく歌いたい気分だったんだ」
「そんなぁ、不安じゃないんですか? 理由も無く、歌って……」
 私よりたぶん年上であろう女は何故か私を崇めるように見上げ、そう訊ねた。
正直、時々不安に思うことはあった。でも、何のためかなんて気にしないようにしてた。
「まぁ、ほら、突然終わっちゃう人生かもだし、好きなことしたいじゃん?」
「死んじゃったら、何も出来ないですものね……」
 私はギターケースを担いで首を横に振った。
「死んだこと無いから分かんないけど、死んだら死んだでしたいことするよ、私は。三途の川で釣りとかやってみたいし」
 女は眼に涙を溜めていた。こんな、テキトーな言葉を聞いて泣きそうになっていた。そして同時にありえないくらい鼻血を大量に流していた。
「アタシ、死に切れてませんでした。一日一日、死に切ることが大切だったんですね!」
 女は何かに目覚めたように勢いよく走り出すと何度もビルの壁に激突していった。白かったワンピースがみるみる汚れ、血に濡れた。
「アタシ、もう何年も、毎日、ビルの屋上から飛び降りているんです。だけどずっと死ねなかった。でもなんだか今夜は逝けそうです。ありがとうございます!」
 彼女はそういうと今度は地面に落ちていたタバコを何本も飲み込んだ。
 止める間も無かった。彼女は苦しみ、悶え、転倒し、転がっていたレンガに頭を激しくぶつけ、やがてピクリともしなくなった。今回は明らかに死んでいた。月明かりに照らされて、頭の中身がヌラリと光っては見え隠れしていた。
 私は恐ろしくなってその場を後にした。その日を最後に、もうその裏路地では歌わなくなった。だけど時たま、その横を通る。そんな時は決まって、何か重いものが落ちたような音が幾度となく、何度も聞こえた。けど、道行く他の歩行者には聞こえていない様子だった。
 私に霊感はない。ただ、都市にあの人みたいな人間が溢れているから、彼女が落ちる音が皆には聴こえないんだ。
 ふと、そんな気がした。

                          (おしまい)


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posted by 朱時卍時 at 12:32| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月10日

「つり革」

「吊り革恋歌模様」
                                         朱時卍時

  シゲルは茫然としていた。どうしたらいいのか分からなかった。なんて言えば、どういう言葉を掛けてやればいいのか、彼の今までの人生にその問いに対する答えの部分は含まれていなかった。ただ、ぼんやりとした答えらしきものを彼は示し、彼女の首を絞めた。
 その日、シゲルは告白された。いつも聞いている懺悔ではない告白。シゲルへの愛の告白だった。夕闇が差し掛かり、北風の予兆たる秋の夜風が教会の開かれた扉から流れ込んだ。
 少女はシゲルの潜む懺悔室の中で何かに突き動かされるがごとく、歌うように、あるいは半狂乱の戯言のように「愛している」と呟いては微笑み、溜め息をつき、少し間を置いてから再び「愛している」と繰り返し語った。
 足下を抜ける風が止み、教会の扉が閉まったのをシゲルは知った。少女と自分、そして二人の神父しか、もはやこの建物にはいないことを知った。
 やがて少女はシゲルの潜む側へと入り込んできた。神父しか本来入ることを許されない、告白を聞く側の小部屋。二人の人間が入るには、少しばかり狭かった。神父が少女と愛を語らうようには設計されていなかった。少女の体温と吐息に自らの胸元に光るロザリオが曇るのを見て、シゲルは少女の肩を抱き、教会の裏庭へと場所を変えた。
 ステンドグラスから洩れる室内の光に照らされて、シゲルは少女の胸元に妙なものが垂れ下がっているのに気が付いた。薄暗い懺悔室では気付かなかったのだ。
 つり革。電車などで揺れる時につかまる、つり革そのものが少女の首から生えていた。ビニールの太い紐に三角形の持ち手。それらが少女の喉元から、まるで植物のようにうねり、シゲルの方へ鎌首をもたげていた。
「愛して……引いて……愛して……」
 少女の転がる鈴の声に、シゲルはもう、その持ち手を引かずにはいられなかった。
「うくうぅううッ……!」
 喉元が絞まり、少女が苦しそうな声をあげる。
 シゲルはそれに呼応するかのように一層、つり革を引く力を強めた。
 少女の目が一瞬、糸のごとく細くなったかと思うと、彼女は口角を吊り上げ、シゲルのロザリオを強く引っ張った。それと同時に首が何者かによって締め付けられる感覚をシゲルは覚え、昼間に食べたミックスピザが胃から込みあがってくるのを感じた。
 互いに首を絞めあい、引き合い、気がつけば彼らは回転運動を始めていた。
 お互いに右手でつり革を、ロザリオを引いていたから、結果として回転を始めることとなったのだろうか。首を絞めあう二人の回転は勢いを増し、やがて遠心力で互いの体は伸びきり、ちょうどプロペラのようになって、生み出した風圧で宙に浮いた。
 二人でできたプロペラは高度3000メートルを越え、通常の風船なら破裂する高さになっても上昇することを止めなかった。やっと上昇することを止めたのは3万メートルを越えたあたり。宇宙から見た地球と言われる姿が見える高度に達した時だった。
 その時にはもう、シゲルが首から下げているものはロザリオではなくなくなっていた。シゲルの首から生えていたのは少女と同じ、つり革だった。
宇宙と地球の狭間で、彼らはゆっくりと回転していた。
「私たちはつり革になるのよ」
 少女の言葉にシゲルは頷き、ああ、自分はこれからつり革になるのだと思った。
 そうして、幾年もの間、彼らは回転しながら自らの姿をつり革へと変えていった。徐々に、部分ごとに。だが首から下全てがつり革になった時、、シゲルは少女にときめかなくなっていた。
 何故、こいつを掴んでいなければいけないんだ。
 二人してつり革になる必要があるのか?
 そう思った瞬間、シゲルの体は少女から離れ、地上へと落下していた。
 ビニール紐と化した体が大気圏に入り、環境に悪そうな臭いがシゲルの鼻を突いた。
 体が千切れ、首だけが自由落下に任せて地球へと落ちていった。
海に落ちるのか、陸地に落ちるのか、確率としては海のほうが高いはずだ。そんなことも落ちている間に考えたが、最終的に、シゲルにとってそんなことはどうでもよかった。どちらにせよ自分がやがて誰かに掴まれることになる気苦労に較べたら、落下して朽ち果てる方がずっとマシに思えたからだった。

(おしまい)

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posted by 朱時卍時 at 16:28| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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